「うちの子、テストの点はいいけど、人の話を聞けない気がする」 「成績は悪くない。でも、自分の意見を言えないのが気になる」 こんな風に感じたことはありませんか?
今、多くの親御さんが「偏差値だけでいいのかな?」と立ち止まり始めています。学力偏重だった時代から、「生きる力」「思いやり」「挑戦する力」など、数字には表れにくい力が注目されるようになってきました。こうした変化に戸惑いながらも、「じゃあ家庭では何ができるんだろう」と模索する声も少なくありません。
この記事では、親御さんが“偏差値以外に大切な力”をどのように理解し、どのように育んでいけるのか、具体的なヒントとともに考えていきます。
「偏差値では測れない力」とは何か?

非認知能力とは、テストや成績で測れない力のことです。たとえば、感情をコントロールする力、他人の立場になって考える共感力、目標に向かって努力する粘り強さなどが含まれます。
この非認知能力は、海外ではすでに教育の中心として扱われています。たとえばアメリカの大学入試では、学力と並んで「リーダーシップ」「問題解決力」「協調性」といった点が重視されているのです。
スタンフォード大学の教育学者ジェームズ・ヘックマン氏の研究によれば、非認知能力は将来の収入や幸福度、健康状態にまで影響することが示されています。これらの力は、子どもが将来自分らしく社会の中で生きていくために欠かせないものです。
また、日本でも2020年度から導入された新学習指導要領では、「主体的・対話的で深い学び」がキーワードとなり、非認知能力を高めるアプローチが求められています。つまり、学力だけではなく、子どもがどんな姿勢で学び、どのように相手と関わるかが重視される時代に入っているのです。
「学力偏重」の落とし穴と、親のモヤモヤ
もちろん学力も大切です。ただし、偏差値や点数ばかりに目を向けると、以下のようなリスクもあります。
- 失敗を恐れて挑戦できなくなる
- 周囲と比較しすぎて自己肯定感が下がる
- 自分の「好き」や「得意」を見失ってしまう
実際、塾で上位クラスにいた子が中学で急に自信を失ってしまう。そんな事例もよく聞きます。過剰な期待やプレッシャーによって「失敗は悪」という価値観が植えつけられると、子どもは失敗を恐れ、挑戦を避けるようになります。
「学力だけじゃない育て方」を模索するのは、決して“理想論”ではなく、現実的な子育ての選択肢になりつつあるのです。子どもが持つ本来の好奇心や個性に光を当てることが、これからの教育には求められています。
偏差値に頼らない“教育観”をどう育てる?

家庭の中で育みたい価値観は何か。それを意識するだけで、日々の関わり方が変わります。
たとえば、「やり抜く力を育てたい」と思えば、失敗したときにすぐに助けるのではなく、寄り添いながら見守る姿勢が生まれます。「他人を思いやれる子に育ってほしい」と願うなら、家庭内の会話に「気持ちの言語化」を取り入れることも効果的です。
“親が信じる教育観”が、子どもの日々の行動に自然と反映されていきます。親御さん自身が「どんな力を大事にしているか」を子どもに伝えることは、学習内容以上に深い影響を与えることもあるのです。
文部科学省が提唱する「主体的・対話的で深い学び」や、非認知能力を重視した幼児教育の現場では、すでに“偏差値教育の限界”を意識した取り組みが広がっています。
最近では「プロジェクト型学習」や「探究学習」といった、生きる力を育む教育も注目されています。こうした学びの中では、子ども自身が「問い」を立て、「なぜ?」と考え、「どうすればよいか?」と行動していくプロセスが重視されます。
たとえばある小学校では、地域の課題を解決するプロジェクトに取り組む授業を通して、子どもたちが自ら情報を集め、地域の人に話を聞き、解決策を提案する機会を設けています。こうした学びは、社会性や課題解決力を自然と育ててくれます。
家庭でできる、偏差値以外の力の育み方

たとえば子どもが「ピアノの発表会で間違えた」と落ち込んだとき、「ちゃんと練習したのに残念だったね。でも、舞台に立っただけですごいよ」と声をかけるだけで、自己肯定感は大きく変わります。
「結果」より「行動」や「挑戦」に目を向けることで、子どもは「失敗しても大丈夫」と感じ、自ら挑戦する力が育っていきます。
また、家庭内で「完璧でなくても認められる」という安心感を与えることで、子どもは自分自身を肯定できるようになります。その土台があるからこそ、自分の意見を持ち、相手と協力しながら進んでいけるのです。
また、何気ない会話の中にも、非認知能力を育むチャンスがあります。
- 「今日、どんな気持ちだった?」と聞いて感情を言語化する
- 「友だちが困ってたらどうする?」と考える習慣をつける
- ニュースや本の内容について「自分はどう思うか?」を聞く
これらの対話は、子どもの思考力や共感力、自己表現力を日々の中で育てる大切な機会です。親御さんが一方的に教えるのではなく、「一緒に考える姿勢」が子どもの学ぶ意欲を引き出します。
また、こうした会話を通じて子どもの「小さな気づき」や「考え方のクセ」が見えてくると、より丁寧なサポートも可能になります。
現代の子どもたちは、習い事や勉強に追われる毎日を過ごしています。けれど、「何もしない時間」や「自由に遊ぶ時間」が、創造性や自己調整力を育む大切な機会でもあるのです。
親御さんが「今日はゆっくりしてみようか」と声をかけたり、一緒に何かを決めずに公園を散歩したりするだけで、子どもは自分のペースを取り戻します。その中で、自分なりの発見や工夫を楽しむようになります。
子どもにとって、いちばん身近なモデルは親御さんです。
偏差値だけでは測れない力。
それは「人としてどう生きていくか」に関わる、大切な根っこの力です。そしてそれは、家庭の中でこそ、深く育まれていきます。
無理に何かを変える必要はありません。
「失敗してもいいよ」「その考え、おもしろいね」といった小さな声かけや、一緒に笑った時間が、子どもの土台になっていきます。
最近では、学力と非認知能力のバランスを大切にする教育を実践するスクールも増えてきています。
選択肢のひとつとして、そうした環境を取り入れるのも、子育ての幅を広げるきっかけになるかもしれません。