「うちの子、考えていることをうまく言葉にできなくて……」 「発表の場になると黙り込んでしまう……」
こんな悩みを持つ親御さんは少なくありません。
話す力=プレゼン力と捉えられがちですが、実はその前提にあるのが語る力、つまりストーリーテリング力です。何かを伝えたいとき、自分の経験や思いを「物語」にして話せる力。それは教科書では教えてくれない、でも今の時代にこそ必要な力です。
「ストーリーテリング教育」とは、子どもが自分の言葉で世界とつながるためのベースになる教育。最近では探究型学習や国際バカロレアなどの教育プログラムでも重視されており、言語教育の枠を超えて“人間力”を育むアプローチとして注目されています。
ストーリーテリング教育とは?

ストーリーテリング教育とは、単に「話し方」や「プレゼン技術」を学ぶことではなく、子ども自身が経験・感情・価値観を“物語”として構築し、他者に伝える力を育む教育です。
この力は、自己理解や他者理解、共感力、そして論理的思考といった“非認知スキル”と直結しており、ただ話すのではなく「伝わる」「共有される」言葉を育てていく学びになります。
海外では、子どもの社会性やリーダーシップ教育の一環として広く導入されており、日本でもこれから注目される教育テーマのひとつです。
社会的背景や教育トレンド

AI時代の到来とともに、知識や情報だけでなく「自分の考えを自分の言葉で伝える力」がますます求められています。
たとえば就職面接、グローバルな場でのディスカッション、SNSでの自己表現。
いずれも単なる情報のやりとりではなく、「ストーリーを通じて共感を得る」ことが重要なスキルになっています。
文部科学省も近年、「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」を教育方針に掲げ、発信力・表現力・思考力の育成を重視しています。
その中で、ストーリーテリングという“人間らしい伝え方”が、知識や論理だけでは伝えられない深い部分を支える力として注目され始めているのです。
教育現場でもその流れは加速しており、小学校の国語では「体験や感情をふまえて話す力」や「相手に伝わる工夫」が評価項目に含まれるようになりました。
中高ではプレゼンやディベートが積極的に取り入れられ、大学入試改革でも「自分の意見を根拠とともに表現する力」が問われています。
その延長として、「話し方の技術」だけでなく、「どんな物語を語れるか」という観点が教育にも浸透しつつあるのです。
これまでの「正解を答える」から、「自分の視点を語る」教育へ。
この変化は、国際教育の現場でも顕著です。国際バカロレア(IB)では、幼児から「自分の体験を言葉にする」「共感を得ながら伝える」ことが重視されており、英語圏の多くの教育プログラムでも、ストーリー型の自己表現が当たり前のように取り入れられています。
“語る力”は、単なる表現の手段ではなく、自己理解・他者理解・関係性の構築という“非認知スキル”と直結するものなのです。
海外では“話せる子”が評価される?

日本ではまだ「話す力=特別な能力」と捉えられがちですが、海外の教育現場では、話すこと=考えること、そして信頼される人間であるための大切なスキルとしてごく自然に育まれています。
たとえばアメリカでは、小学校低学年から「Show and Tell(見せて話す)」という活動が授業の一環になっており、自分の体験やお気に入りのものについてクラスメイトの前で語る習慣があります。ここでは内容の正確さ以上に、「どんなふうに伝えたか」「聞き手の心にどう届いたか」が大切にされます。
また、国際バカロレア(IB)プログラムでは、“reflective communicator”としての姿勢が重視され、単なる知識の伝達ではなく、「自分の考えを物語として共有する力」が評価の対象になります。発表の場でも、ストーリーの構成や言葉選び、聴衆との対話的な関係づくりに重点が置かれています。
このように、海外では“話せる子=伝わる子”という認識があり、ストーリーテリングは単なるパフォーマンスではなく、「人との信頼関係を築く基礎」として教育の中心に位置づけられているのです。
話す力は“国際感覚”の入口にもなる
ストーリーテリングは、語学力やプレゼン力を超えて「異文化理解」や「相手に伝えるための配慮」を育てる手段でもあります。
たとえば、多文化環境の中で学ぶ子どもたちは、自分の文化や経験を“ストーリー”として語ることで、違いを共有し、共通点を見つけていきます。そのプロセスで「わかりあえた」という感覚が芽生え、自然と相手の背景にも関心が向くようになるのです。
国際的な学校や海外の探究型カリキュラムでは、「一人ひとりのストーリーをリスペクトする」ことが学びの基本にあります。
これは、日本の子どもたちにも応用可能です。自分の好きなもの、家族のこと、日常で起こった小さなできごとをストーリーとして語れるようになることは、「相手の文化に触れたときに、自分の軸を持って交流できる」第一歩になります。
つまり、ストーリーテリングは国際感覚の土台であり、語学の前に育てておきたい“人との距離の取り方”なのです。
これからの時代、知識だけでなく“人間としての信頼性”や“共感力”が、ますます大切になっていきます。
そして、それを育てるのが、ただ「話す」だけでなく、「語る」こと。自分の思いや経験を、物語として相手に届けようとする姿勢は、きっと相手の心に届きます。
親御さんがまず「聞く人」になり、子どもが安心して語れる家庭をつくること。それが何よりのストーリーテリング教育の土台になります。
日々の会話に、少しだけ“物語”の視点を加えてみてください。きっと子どもの言葉が変わり、表情が変わり、人との関係の築き方も変わっていくはずです。
声に出すことは、世界とつながる力になる。
その第一歩を、家庭のなかから始めていきましょう。