小学生から哲学教育?世界で広がる思考トレーニング

基礎知識
こんな人向けの記事です
  • 哲学教育ってなんだろう??
  • どういった教育なのかな??

「なんでそれが正しいの?」「どうして人は生きるの?」

こんな質問を投げかけられたとき、うまく答えられなかった経験、ありませんか?

子どもの純粋な疑問に、つい「難しいからあとでね」とかわしてしまう。でも、それってもったいないことかもしれません。今、世界ではこうした哲学的な問いを子どもたちに考えさせる「哲学教育」が注目されています。

哲学というと堅くて難しそうな印象を持たれがちですが、実は子どもにとってこそ最適な「思考の土台作り」とも言われています。

「自分で考える」「問いを深める」「相手の意見を尊重する」といった力は、これからの社会において不可欠なスキルです。

親御さんとしては、「小学生から哲学なんて本当に必要なの?」と不安になることもあるでしょう。でも実は、子どもだからこそ身につけやすく、家庭でも少しずつ始められるのがこの哲学教育なのです。

そもそも哲学教育とは?

哲学教育とは、「なぜ?」「本当にそうなの?」という問いを通して、子どもが自ら考える力を育てる教育のことを指します。

これは正解を暗記する学習とは異なり、問いに対してすぐに結論を出さずに考え続ける姿勢を育てるものです。

この教育では、子ども同士がテーマについて話し合う対話が中心となります。「約束ってなに?」「自由ってどういうこと?」といった問いをベースに、正しさや善悪を深掘りしながら、相手の意見に耳を傾け、自己の考えを深めていくこと。大人にとっても答えが難しい問いに、あえて立ち向かうことで、思考力・想像力・表現力といった幅広い力が自然と養われていきます。

世界的に見ると「P4C(Philosophy for Children)」という名前で知られ、イギリス・フランス・アメリカ・オーストラリアなど多くの国で導入が進んでいます。

特にフランスでは、1980年代から哲学を小学校の正規教育として取り入れ、子どもたちの議論する力を大切に育ててきました。

「哲学」と聞くと難解で抽象的に思えるかもしれませんが、実際は“考える習慣”を作る教育のこと。小学生の素朴な疑問が、そのまま思考の入り口になる点が最大の特徴です。

哲学教育は、未来を生き抜く力を育てる思考の筋トレとも言えるでしょう。

知識の暗記から「深く考える力」へ

これまでの教育は、どちらかというと「正しい答えを素早く出すこと」が重視されてきました。

ですが、AIの進化や社会の多様化が進むなか、「決まった正解がない問いにどう向き合うか」が問われる場面がどんどん増えています。

OECDの学習到達度調査(PISA)では、近年「批判的思考力」や「他者と協働する力」といった非認知能力への注目が高まり、日本でも新学習指導要領に「主体的・対話的で深い学び」が盛り込まれました。

その中でも哲学教育は、知識の記憶ではなく「問いを持ち続ける姿勢」を育てる点で、まさに現代の教育にぴったり合致する取り組みです。フランスでは1980年代から小学校に導入され、イギリスやアメリカでもP4C(Philosophy for Children)という名称で広がっています。

なぜ哲学教育が今注目されているのか?

その理由のひとつは、「思考力」や「対話力」といった、テストでは測れない力が、社会を生き抜く上で必要不可欠になってきたことにあります。

哲学教育では、答えのない問いについて子どもたち同士が自由に意見を交わし、考えを深めていきます。そのプロセスには「自分の意見を持つ」「相手の話を聞く」「答えが一つでなくても良いと受け入れる」といった、非常に重要な要素が詰まっています。

こうした力は、単に学力を高めるためでなく、将来どんな職業に就いても活かされる「生きる力」になるのです。

家庭でできる哲学的な思考の育て方

ここでは家庭でできる哲学的な思考の育て方について大事なポイントを解説していきます。

  • 難しい言葉はいらない。「どう思う?」が哲学の入口
  • すぐに答えを出さないことが最大のヒント
  • 家庭の中に“問いの時間”を設けてみよう

それぞれ解説します。

難しい言葉はいらない。「どう思う?」が哲学の入口

哲学教育というと、難解な議論や古典の読み込みをイメージしがちですが、小学生に必要なのはもっとシンプルな問いかけからのスタートです。

たとえば、

・「なぜ正直でいることが大切なのかな?」

・「約束って、守らなきゃいけないの?」

・「どうして人は違う意見を持ってるのかな?」

こういった問いは、家庭の中での日常会話の延長線上にあります。

大切なのは、「その問いを一緒に考えること」。「それって面白い考えだね」「そういう見方もあるんだね」と、子どもの思考を受け止め、広げていく姿勢こそが、哲学教育の第一歩です。

すぐに答えを出さないことが最大のヒント

親としては、「それはね、、」とつい正解を教えたくなってしまいます。でも、哲学教育ではすぐに答えを出さないことが何より大切です。

「わたしはこう思うけど、あなたはどう?」と投げかけてみる。正解ではなく考える過程を楽しむことが目的です。

とくに小学生は、自分の言葉で考えたことを表現する力がぐんぐん育つ時期。そこに「どう感じた?」「なぜそう思った?」と問い返すことで、思考の深さと論理性が自然と身につきます。

家庭の中に問いの時間を設けてみよう

例えば、夕食の後や寝る前に、「今日の問い」として一つテーマを決めて話す時間をつくってみるのもおすすめです。

「友達とケンカしたとき、どうやって仲直りするのがいいと思う?」 「『ありがとう』って、どうして言うの?」

このように、道徳や日常に根ざしたテーマこそ、子どもにとっての“哲学”になります。親御さんが一緒に悩み、一緒に考えてくれる時間は、子どもにとって大きな安心と刺激になります。

「対話の場」を持てるスクールが広がっている

最近では、「哲学対話」や「探究の時間」を取り入れているスクールや塾も増えています。

たとえば、P4Cの手法を取り入れたワークショップ型のスクールでは、子どもたちがテーマに沿って自由に意見を出し合い、互いの視点の違いを認め合う経験を積むことができます。

また、インターナショナルスクールでは、英語環境の中でのディスカッションやプロジェクト型の学習を通じて、「自分の考えを伝える力」と「他者を理解する力」の両方を育てる仕組みが整っています。

最近では、オンラインでも子ども向けの哲学プログラムを展開するスクールが登場しており、地域を問わず家庭と連携しながら学びを進められるようになってきました。

外の学び × 家庭の会話で深まる思考の循環

外部で学んだ哲学的なテーマや問いを、家庭で再び取り上げてみる。逆に、家庭の会話から生まれた問いをスクールで話し合ってみる。

このように“家庭と教育環境を往復する思考のサイクル”が生まれると、子どもは単なる知識ではなく、「考える力」としてその問いを自分のものにしていきます。

親御さんがスクールの取り組みに関心を持ち、「今日はどんなテーマだったの?」「どんな意見が出たの?」と声をかけるだけでも、子どもは自分の思考を肯定されていると感じられます。

哲学教育とは、子どもに「正解」を押し付けるものではなく、「考えるって面白い」と思える時間を贈ることです。

家庭でできる問いかけから始まり、スクールとの連携の中で深められる思考のプロセス。それらはすべて、子どもがこれからの社会を“自分の頭で考えて進んでいく”ための土台になります。

難しく考えすぎなくても大丈夫。大切なのは、問いに向き合う“姿勢”を一緒に育てること。親御さんが「わたしもよくわからないけど、一緒に考えよう」と言えることが、最高のスタートになります。

「小学生に哲学?」と不思議に思うかもしれません。でも今、世界中でその力が必要とされていて、そしてそれは、どんな家庭でも少しずつ育てていける力なのです。